コラム

技能実習廃止?【特定技能制度との一本化】

新制度検討の全容をまとめました。

日経新聞の一面に掲載されるほど、社会にインパクトを与えた新制度の検討内容。日本の移民政策の第一歩になるのか、聞こえがいいだけの内容に収まるのか。様々な切り取られ方で、未来予測がされています。


ここでは有識者会議のヒアリング結果並びに報告書を全て読んだ上で、重要な変更点となりうる内容をまとめます。主観的に切り取ることがないようにできる限り留意します。

 


▼目次

 

【1】高い注目度のワケ

テレビではそこまで報道されていない今回の中間報告書ですが、新聞等のメディアでは一面で扱われるほど注目されています。

そもそもなぜ、ここまで中間報告が注視されているのか?
その理由は中間報告書の内容そのものが、日本社会が進む次の一歩を示しているからです。
 

今回議論されている技能実習制度や特定技能制度は、簡単に説明すると日本人がやりたがらない仕事を外国人にやってもらうための制度です。昔は日本で働きたい外国人が今よりたくさんいました。しかし日本の賃金は世界的にはどんどん安くなってきて、お金を稼ぎたい外国人にとっては昔ほど魅力的な国ではなくなりつつあります。
 

人口もどんどん減る、働いてくれる外国人もこない、でも経済は維持したい。
そんな日本社会の課題解決の一翼を担っていた技能実習、特定技能制度の変更はまさに、日本社会として将来の具体的な課題設定の詳細や、その解決手段が浮き彫りになります。だからこそ、注目度が高いのだと考えています。

 

【2】新制度検討の目的

そもそも技能実習制度、特定技能制度への見直しの動きが進んだキッカケは、大きく分けると二つあります。
 

  1. 技能実習制度に対する世界的評価の低さ

  2. 制度の目的と実態との乖離


有識者会議が開かれるに至るには、勿論多角的に様々な議論がなされたのは当然ですが、ここでは要旨を把握する目的でまとめていきます。

 

技能実習制度に対する世界的評価の低さ

米国務省から「人身取引」と揶揄されるほど、技能実習生の人権軽視や劣悪な労働環境などが問題として取り上げられ、日本政府、国会では抜本的な解決策をこれまで提示することができずにいました。


「労働力を安く確保する」という意識の下、技能実習制度を活用しようとする企業の具体的な待遇内容は報告書にも記載されており、6畳の部屋に3人で住まわせる等、その内容はかなりショッキングなものでした。いくら劣悪な環境での実習であったとしても、別の実習先で働くことは原則認められていませんでした。


そのため技能実習生の100人に約2人が失踪するほどの失踪率の高さ(1.8%)も、大きな問題となっています。


きつくても頑張って3年耐えるか、不法就労になるけれども今の環境から逃げるか。どちらを選んでも地獄のカードを異国で誰にも相談できない中突きつけられる辛さは想像しがたいものがあります。

 

「国際貢献」という名目と、「労働」という実情

技能実習制度の目的は、海外現地では習得することのできないような技術を、日本で学び、母国に持ち帰って活かしてもらうというものです。


しかし実際の制度は、労働として活用されてきました。
実態にそぐわない制度設計の上で、今に至るまで運用ができてしまったこと自体問題ですし、ひいては雇用環境の問題改善が十分になされなかったことにも繋がっているのは間違いありません。

 

外国人を支援する仕組み

技能実習制度では監理団体、特定技能制度では登録支援機関という団体が原則外国人を支援するという仕組みになっています。


両団体は外国人1人あたり2万円程度の月額費用を支援料として、外国人を受入れる企業から徴収します。つまり受入企業がクライアント(お客様)になるわけです。


そのため、外国人側からのクレームや相談がある場合に、企業側に寄り添いすぎてしまうケースが多く発生しました。転職したいという相談をはなから細かい内容も聞かずに引き止めたり、制度上可能であるのに転職できないと虚偽の説明をしたりと、支援する立場としてはあるまじき行為も報告書において明記されました。

 

外国人のキャリアプラン

前述の通り、技能実習はもともと日本で学んだ技術を現地に持ち帰るという目的です。そのため日本文化の理解が深まり、日本語が上達した実習生は基本的に帰国せざるを得ず、その後の日本国内でのキャリアプランが構築できずにいました。


対応策として2019年に特定技能制度の運用が開始されましたが、特定技能1号での滞在上限年数は5年。無期限に更新することができる特定技能2号では、1号で就労可能な12分野から大幅に絞られ、2分野でのみ認められています。(建設業、造船・舶用工業の2分野)


さらに技能実習制度はその職種と作業区分の多さも課題視されています。
特定技能1号の分野が12分野であるのに対し、技能実習の職種は87職種もあります。(2号、3号への移行職種)


実習した職種全てが特定技能へ移行できるわけではないため、外国人にとっては長く日本で生活するイメージをもてず、希望したとしても、日本への定着が難しいことも課題となっていました。

 

【3】変更ポイント

中間報告書で記載された主なポイントをまとめていきます。

 

制度と実情のすり合わせ

国際貢献を目的としてきた技能実習において、その実情がかけ離れていることは説明した通りです。実習にくる外国人も受け入れる企業は、そもそも「働く」つもりで来日しています。

この実情に制度を合わせようというのが変更点の一つです。
「技能実習制度を廃止した上で、国内産業にとって人材確保の制度として再出発することが必要」

資料2-1 中間報告書より抜粋 (原文ママ)


技能実習制度は廃止または名称変更を伴い、特定技能制度のような就労資格的な位置付けになっていく可能性が高いです。識者の中では、特定技能0号的な役割での制度変更を予測している方もいらっしゃいます。

 

転職可能性の緩和

前述の通り技能実習制度では、どんなに不満があっても基本的には他社での実習が難しい現状がありました。結果として失踪率の高さにつながり、失踪者の犯罪リスク、その後の強制退去など様々な予見リスクが発生していました。
 

同職種での転職であれば、基本的に認める方針とすることで、企業と実習生のより公平な環境構築を図っていくものです。転職が可能になることで、より働きやすい企業へ人材が集まり、劣悪な就労環境を強制してきた企業には人が集まらないという流れが生まれていくかもしれません。

 

監理団体、登録支援機関の厳格化

現在設けられている基準をより上げて、支援が確実に行える水準を定めようという動きです。ヒアリング報告では小規模企業では支援ができるか疑問視する内容や、職業紹介事業者でないと支援できない方がいい、というとんでもない意見も見受けられました。
 

厳格化の方向性が明記された以外に、具体的にどのように水準を上げていくかまでは明記されておらず、不透明な面が多く残ります。

 

特定技能の職種を増やす

技能実習から移行できる職種を特定技能1号として追加する動きです。
元々はコンビニや運送、産業廃棄などが新たに分野として追加しようと自民党内で議論されていました。今回の報告書では縫製業や鉄鋼等の新しい分野名についても記載が入りました。
 

現在の12分野から新たに追加される分野が複数出てくることが予測されます。特定技能の職種を増やしていく方向で動いていくとなると、やはり技能実習は特定技能に組み込まれるのではないかと個人的に予測しています。

 

長期的に日本で就労できる仕組み

技能実習生が日本で滞在する場合、技能実習2号(3年間)を修了し、そのまま特定技能1号(5年間)で就労することで最大8年間の滞在が可能となっています。特定技能2号であれば、無期限に更新ができるようになりますが、たった2分野。制度としては活用されていない現状です。
 

今回の中間報告では、外国人を日本の地域住民として迎え入れるための自治体との協力体制の構築なども明記されました。外国人が日本で就労を続けるメリットとしては、人口減少を食い止める、より振り込むと日本で納税し、消費してもらえる点にあります。
 

報告書からは、これまでのただの労働力の確保から、いわゆる「移民」的な長期での受入を認めるような表現が垣間見えました。そのために、現在認められていない技能実習生、特定技能1号外国人の家族帯同を認めるべきという意見や、特定技能2号へ移行できる分野の拡充など様々な案が明記されました。

 

【4】まとめ

上記をまとめると、下記の通りです。
報告書の段階のため、あくまでも現時点での見通しとしてまとめています。


・技能実習制度
 国際貢献から「就労」へ
 特定技能制度へ組み込まれる可能性大
 転籍がより簡単にする
 監理団体の厳格化、劣悪な条件での就労を強いる企業の受入停止に繋げる


・特定技能制度
 1号分野の拡充
 2号以降の分野の拡充
 技能実習制度の組み込み
 家族帯同を認める

 

【5】個人的に思うこと。

具体的に制度変更となりうるポイントをまとめてきました。
これまで特定技能の在留資格申請を専門的に進めてきた企業の代表としては、最も重要なのは日本側(受入企業)の意識変革にあると考えています。
 

地方にいくと、外国人=安い労働力という考えをいまだに持っている経営者の多さに本当に驚きます。そもそも日本人が安い労働力になりつつある現状すら把握しておらず、そんな経営者の下で幸せに彼ら/彼女らが働けるとは思いません。

外国人「で」いいはもう時代遅れです。
客観的に人口も減っていき、賃金も安い国でそれでも働きたいと思ってもらえている現状がそもそもすごい。外国人だから安い給料、好条件でなくてもいいという考えを改めないと、いくら良い制度ができたとしても、その制度を使う側のリテラシーを同程度高めていかないと宝の持ち腐れになってしまうのは間違いありません。


今回の制度の改正で、劣悪な就労環境を外国人に強いてきた企業はどんどん淘汰されていくと思います。日本人と差をつけずフェアに雇用してきた企業への人気が高まることで、日本で働きたいと思ってくれる外国人が増え、よりいい人材が日本へ集まるという循環を生み出していけたらと思います。


外国人雇用という選択肢自体により大きな価値がつくチャンスの改正になると期待しています。秋の最終報告まできっちりフォローアップしてまいります。

 
 

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